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Leonard Foujita, 藤田嗣治

 

 

藤田嗣治、大回顧展

 

大回顧展というのはまったく誇張ではなく、途中休憩をしないととても保たない、それはそれはヴォリューミーな展示でした。

 

「私は世界に日本人として生きたいと願う。」

という彼の言葉はあまりにも有名です。

さまざまな理由で、「日本に棄てられたのだ」とも言いながら63歳にして日本と永別したフジタですが、仕方なく最期をフランスで暮らしたわけでは決してなく、むしろ彼の魂はそれを求めていたのだと想像できました。

予てから、「生まれた国が魂にとって完璧な場所とは限らない」と感じてきたことを、彼をたどることで再度つかんだ気がします。

日本人であるというアイデンティティを持っているのとはまったく別のこと。

 

さて、展示は、乳白色の肌が確立されるまでの作品群から丁寧に始まります。

キュビズム影響下の作品、マリー・ローランサンを思い出させる表情の少女像 (どこか現代作家の奈良美智を感じました)、中世宗教美術からの影響などを経て、

たどり着いた独特の白と面相筆のタッチ。

漆黒や繊細な布地の背景に浮かび上がる、乳白色の身体たち。

その女性たちが一堂に並んでいると、微妙な色合いの白の世界が、不思議な明るさで目の前に現れてきました。

外からの透明な光ではなく、内側から放たれる種類の、密度の濃い光に見えました。

 

旅人としてのフジタ

あまり注目はされませんが、異国人、客人としての彼を、垣間見ることができました。

単にフランスと日本を半分ずつ生きたのではなく、その合間に南米に数年間滞在し精力的に創作をしていたこと、中国や韓国や琉球にも足を運んでいたこと、そして第二次大戦のため帰国した日本を、外国のように捉えていたようだったこと。

 

 

Catholic, Foujita の誕生

 

Foujita (Léonard Tsuguharu Foujita, 1886-1968). “Vierge couronnée par deux anges”.

 

画家は1959年に妻とともにカトリックに改宗したあと、たくさんの宗教画も残しています。

これまで幾度も描いてきた題材ではあるものの、「カトリック信者」として、もっと内部から湧き上がるものを描き取っていったのではないでしょうか。

 

その中でも、今回の展示の最後の一枚であった、「礼拝」。

中央にマリア、左右にフジタ自身と最後の妻の君代氏、背景には2人の暮らした家。

天使たち、小鳥たち、渡り鳥たち。

 

宗教画の性質を持ちながらも、むしろ画家の心を感じる豊かな画面を見たとき、私は、「彼はついにそこにたどり着いたのだな」という感覚になりました。

そこってどこなのかはよくわからないのですが、

ここまでの場所的、人間関係的、世界状況的な軌跡を見てきて、最終的にはフランスで、改宗をし、日本人の妻とアトリエに暮らし、ずっとともにあったさまざまな戦争も終わり、いろいろな意味での画家自身になったのではないでしょうか。