Pencake works -paper items and design- オリジナルペーパーアイテムとデザイン

トークイベント London Review Sketchbook

 

ゲストトーク@世界のお茶とお話

 

「旅するようにお茶を愉しむ」をテーマに、その国にゆかりのあるゲストのトークを聴きながら開かれるお茶会があります。
フィーチャーする国とテーマに合わせたお茶と軽食、オリジナルスイーツとともに、その国の暮らしや仕事、アートや文化など、ゲスト独自の視点でみる各国の情景を楽しめます。

 

会の主催の方にお声がけいただき、私もゲストトークの機会をいただきました。
ロンドンに滞在していたときの体験を、LONDON REVIEW SKETCHBOOKと称し、当時の写真やスケッチブックとともにお話させていただきました。

会の様子はぜひこちらもご覧ください。

 

私にとってこの滞在は、いまのPencake worksの原点となるもので、その一瞬一瞬が非常に大切な資源となっています。

スコーンとともに、ロンドンのティールームガイドを見るゲスト

トークの準備のため、当時の色々なパンフレットや資料が詰まったパッケージをいざ紐解いてみると、ものそのものはしっかり覚えているのですが、触れた瞬間に関係のない記憶までどんどんとあふれてきて、収拾がつかなくなりました。
なんとかそれを時系列にまとめ上げ、膨大な写真を選りすぐり、1時間程度のトークとスライドに落とし込みました。

 

この時のお茶会では、それ以外にも実はもうひとつプロジェクトがあったのですが、まずはトークをまとめてご紹介いたします。

 

 

二度目のU.K.暮らし

 

数年前、アート&デザインのショートコースを取るため、半年ほどロンドンに滞在しました。
イギリスは2回目だったこともあり勝手も解っていたし、当時はちょうど円高の恵みを大いに受け、世界有数の物価高の都市でも何とかやっていくことができました。
その時の生活についてはまたまとめたいと思っていますが、今回はその滞在で得た人生の糧についてお話します。

 

UNIVERSITY OF THE ARTS LONDON

この滞在で、私の人生で最も貴重なものを「発見」することができました。
その瞬間は、コースに入って割とすぐにやってきました。

 

毎週、描き溜めたスケッチを先生に見てもらうのですが、そこで、これは全然仕事になってない、とか言われるわけです。
それは上手い下手ということよりも、その人の魅力が出せているかどうか、というようなことだったと思います。
その時に言われた言葉で、ずっと心体に残っている言葉があります。

 

自分のスタイルを見つける

2分程度私のスケッチブックを見たあと、最終的に You need to love what you draw. /「あなたは自分の愛するものしか描けないのよ」と言われたんです。
これはもしかすると当然のように聞こえるかもしれませんが、結構そうでもない人も多いのです。
社会に対する問いかけがアートだったりもしますし、極端な話否定的な感情にフィーチャーして制作する人もいる。
対象に愛情を込めるというのは実は当たり前のことではないんです。

 

私の仕事になっていたのは、食べ物ばかりでした。あとは花や、古いもの。
逆に、画一的なグラスやプラスチック素材、全体を掴むよりも細部を”観切る”ことに喜びを感じるのか、自然のものでも守備範囲を超える木などは一切ダメでした。

愛するものを描くこと。これをプロフェッショナルに変換すれば、描くものを愛すること。
愛せないものはきっぱり描かないこと。

このモチーフの取捨選択という「発見」は、10年以上の私の悩みを簡単に晴らしてくれました。
自分は何をどう描いたらいいんだろうという、漠然としたもやもやです。
50%の靄は、これで晴れました。

 

私は大義名分を得て、滞在中はひたすらにケーキを描くことにしたのです。
取材のため、スケッチのため、と称してケーキを食べる、素晴らしいエクスキューズ。
こんなに罪悪感なくケーキを食べ続けられた経験は貴重でした。
(でも実は非常に痩せたのです。精力的に動いていましたから)

カフェを回りながらスケッチを重ねていく中で、あと半分の靄を晴らす、もう1つの大切な出会いがありました。画材です。
これも先生が私のスケッチを見て、とあるペンを勧めてくれました。
私はそれをコヴェントガーデンの画材屋さんで買い求めました。
パートナーを得たことで飛躍的に制作スピードがあがり、最終的に自分のスタイルを「発見」「確立」することができました。

 

他に先生の言葉で他に印象に残っているのは、
「失敗したと思ったら、それをどうアレンジして自分の仕事に持っていくかを考えなさい」というものです。
失敗は、失敗にしなければいいのです。

この時の具体的な内容はなんだったかというと、ある窓枠のスケッチでした。
その窓枠はよく描けたのですが、枠の外側のレンガがいけませんでした。
そこで先生はその辺にあったゴールドの紙切れを充て、窓の外側の部分をコラージュで隠しました。
そして「これで作品になった」と言ったのです。

 

LONDON REVIEW SKETCHBOOK

 

最後に、このタイトルの説明をします。
ロンドン中のティープレイスを紹介する、あるガイドブックがあります。
これは観光客向けというよりはロンドン市民に向けたような内容で、辺鄙なところもたくさん載っている本です。

 

掲載されている100近くのティールームやカフェを全て制覇するという、友人の無謀な挑戦に付き合わされ、(付きあわせてもらい、なのかわかりませんが)滞在中ロンドン中を巡ることになったのです。ふたりとも、スケッチブックを片手に。

今回のトークに際した準備は、自然とその体験をなぞってみることでした。
スケッチだけでなく、カフェだけでなく、あの春のロンドンの空気、建物、バス、地下鉄、スーパーマーケット、植物、風、雨、光。
全てがいまの私をつくり、Pencakeの血肉になっています。

 

私の好きなティールームがひとつ、大英博物館のそばにあるのですが、そこの名前はLondon Review Cake Shopといい、London Review Book Shop に併設されています。
もし行かれたら、オリーブオイルが好きな人は必ず、Rosemary Lemon cake を食べてみてください。衝撃を受けますから。

 

メッセージ

このトークで私が一番伝えたかったこと、

それは「全てがチェーンになっている」ということです。

 

私がロンドンにいたのは5年も前のことですが、今ここでこうしてご紹介する機会をいただいたこと自体が奇跡のようですし、さらにそのタイミングが、これから活動を広げていこうとしている今だったこともすごいことだなと思います。

 

ブランクがあると分かりづらいのですが、全てのものごとが次につながっているんです。
それは紐のようなものではなく、ひとつひとつが輪になったチェーンのようなイメージ。
1つの体験や経験はそれ自体で完成されており、一見バラバラです。でも、絶対にどこかに繋がっています。

 

私は、5年ものブランクがありました。それでもエネルギーをかけた瞬間に繋がったのです。
もちろん帰国後もささやかに創作活動は続けていたのですが、そこにかけられるエネルギーは大きなものではありませんでした。
エネルギーをかければかけるほど、このチェーンはすぐに繋がります。

 

今回、ロンドンの日々をご紹介できる機会をいただき、私自身ひとつの節目とすることができました。

 

ありがとうございました。

ロンドンで使っていたシルバーのティーポットと、よく飲んでいたYumchaa.

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