19世紀のメッセンジャー
先日、パリのポストカード文化について知る機会がありました。
デザインの観点からもシステムからも、その洗練さは素晴らしく印象的でした。
もともと、ポスターが大流行した19世紀には宣伝やメディアとしてのアートやデザインがあふれており、センス抜群の一時代だったことは知られています。
それが一個人レベルで楽しまれ、人々のコミュニケーションに大きく寄与していたのが、ポストカードだったのです。
あらゆるメッセンジャーツールやEメールの恩恵で、伝えたいことが瞬時に相手に届くのが現代では当たり前です。それはテキストだけでなくイメージもそうですね。
でも、携帯から送るEメールが普及してきた頃を思い返してみれば、まだ画像はつけられませんでしたし、書ける長さもある程度決まっていました。モバイル端末でほぼどんなファイルでも瞬時に送れるようになったのは、実は思っているほど昔のことではないのです。
それを念頭に置いてみると、19世紀末から20世紀初頭のパリやロンドンなどの都市で流通していたポストカード文化は、現代に引けを取らないものでした。
当時、印刷技術の発展もあり、様々な図柄のポストカードが売られていました。
街の風景、最新のファッション、デザイン画など、今見てもセンスあふれるものばかりです。
街中で売られているそれらのカードを人々は買い求め、目当ての相手に出すわけですが、驚くべきは当時の郵便配達が1日に2,3度行われており、朝投函するカードで午後に会うお誘い、ということも普通にあったそうです。イメージ付きのメッセージが、これだけの早さで届く。
LINEで瞬時にメッセージできる今ですら、朝送って午後の誘いというのはなかなかフットワークの軽い行動ですよね。
(もちろん、当時と現代では1日の忙しさが全然違うとはいえ)
現代と違い、手の中に届くわけではありませんから、ランチ後に一度家に戻って郵便が来ていないか確認する、という動きも習慣化していたかもしれません。
バイク便のようなとんでもない料金を払うわけでもなく、実際に手を触れたメッセージがその日のうちに相手に届くという意味では、現代を超えているともいえます。
ところで、我々絵を描く人間にとってポストカードという “商品” が無視できないことも、当時から変わらなかったようです。
大きく描いた作品をカードサイズにしたもの、ポストカード用に描きおろすものなど、作品を広める重要なメディアとして機能していました。
私自身は、旅先から必ず数名の友人たちにカードを描きます。
メッセージツールとしてアナログとデジタルが違うのは、紙に吸われた風や香りなど、その時空間ごとをメディアに閉じ込めて、相手に届くということではないでしょうか。
当時のパリのメッセンジャー、ちょっと体感してみたいところです。