MUNCH A RETROSPECTIVE
名画の底力
「叫び」はやはりすごかった。
大混雑の中、人々の頭の隙間からちらりと背景部分が見えただけで胸を掴まれた感覚だった。
薄暗い展示の中、なんとか正面へたどり着く。
正面から見ずとも十分すごいオーラなのだけど、ここまできたらきちんと見たい。
目の前に立つこと数分。心揺さぶられるひとときだった。
さらに良かったのは、並架されていた「絶望」の存在で、こちらを見てから「叫び」に目を向けると、ふたつの性格の差がよく見える。
この静と動の対比が見られたことは非常に価値があったと思う。
あまりにも有名な作品を見るときは、色々な先入観や付けられた価値を取り払ってみるのが大変だ。
しかし、こと今回に関しては、心の準備ができる前に作品の一部が目に入り、それであの掴みだったので、良い体感だ。
メインはこれだけでなく会場じゅうに散りばめられていたけれど、中でも
「夏の夜、人魚 / 1893」に見入ってしまった。
海のブルーグレーと月のクリーム色の月のハーモニー、人肌と呼応する岩肌の白やピンク、ブルーとオレンジのコントラスト、絶妙な赤の差し色の赤と緑のコントラスト。ムンクの自画像を想起させる人魚の表情。
少し離れてみると、人魚が今そこに現れたかのような静かな動きすら感じられる。